2013年7月11日木曜日

7.10 Zepp Namba LIVE REPORT

「1曲目、変えてみるか」
 長渕がつぶやいたのは、開演5分前のことだった。もうフロアには入り切らないくらいのオーディエンスが詰めかけ、さすがは大阪、と思わず感嘆してしまうほどの熱い剛コールを送り続けている最中だ。
 このファンクラブ・ツアーも残り3本。1曲目は『Rainy Drive』で初日の鹿児島宝山ホールからずっと通してきたのであり、この日のリハーサルでも、1曲目を変更するというようなことは、そのそぶりすらなかった。長渕剛のツアーに初めて同行した僕は、驚きを通り越して、その場で固まってしまった。そんな僕に、さらに長渕が尋ねる。それも、あっけらかんとした調子で。
「ずっと盛り上がってんなぁ、あいつら(笑)。谷岡!お前、1曲目、何がいい?」
 この瞬間、この場所で、もっとも幸せな人間かもしれないと思った。だって、あの長渕剛が大事なライブの1曲目を何にするか、僕に訊いているのだ。そして同時に、この瞬間、この場所で、世界一の難問を突きつけられた人間だと思った。しかし、結局僕は答えられないまま、長渕が口にしたのは『カラス』だった。驚いたのは、その後のスタッフの反応の速さとスムーズな対応力だ。
「『カラス』だとギターはカポなしのCですね」
 舞台監督が言えば、ギターテクニシャンがすぐさまチューニングしたギターを持って楽屋に現れた。それを受け取って、しばらくギターをかき鳴らし、「よし、行こう!」長渕は楽屋の通路からステージ袖へ消えて行った。ナレーションが入り、BGMのボリュームが上がり、暗転、そして静寂。大きな歓声が上がった。
「ヘイ!」
 マイクロフォンを通した長渕の声が響く。
〝執念深い 貧乏性が 情けねえほど しみついてる〟
『カラス』だ。
 
 一気に会場のボルテージが上がる。そして、怒号のようにみんなが歌っている。ああ、ライブというのはこんなふうに出来上がっていくのか!現実にそれを体感すると、言葉では言い表せない感動が身体を突き抜けて行った。そうだ。僕たちは、CDを聴きにわざわざ会場まで足を運んでいるわけではない。今日のこの瞬間、この場所にしかない〝ライブ〟を体感しに来ているのだ。そしてそれを創り上げるのは、アーティストだけではなく、スタッフやオーディエンス、いくつもの要素なのだ。そうして、それらがひとつになった時にはじめて〝マジック〟は起こるのだ。
 
 2回目のアンコールの最後の曲は『夏祭り』だった。
 『カラス』同様このツアーで初めて披露された曲だ。僕たちはこの日、たしかにマジックにかかっていた。そして、声が枯れるまで、涙を流しながら大声で歌った。