2013年6月11日火曜日

6.8 鹿児島・宝山ホール LIVE REPORT

長渕剛の本質を感じるまさにファンクラブ・ツアーならではのライブ!


 わき起こった歓声が静寂に変わった。
 いよいよ始まったファンクラブ・ツアー〝Thank You!〟、宝山ホールに詰めかけた超満員のオーディエンスはその瞬間、何を思っただろうか。
 あれ、いつもの剛のライブと違う、という戸惑い。
 声援を送ろうと思って吸い込んだ息を飲んでしまった、驚き。
 目の前に一人で立つ長渕剛と対峙しているかのような、緊張感。
 今回のツアーは長渕剛による弾き語りライブだ。照明や演出を極限まで削ぎ落し、ギターの音の一粒一粒、声の立体感、そういった本質のみをクローズアップしたライブになっている。だから、剛のライブに行くこと、すなわち、拳を上げて喉が枯れるまで叫ぶことだと認識していたファンは度肝を抜かれたことだろう。闇の中にギターを構えた長渕剛がポツンと佇んでいるのだから。
 曲が進行して行くにつれ、唄の世界にどんどん引き込まれて行くのがわかる。まるで覚醒しながら眠りの奥深くに分け入っていくような、ライブ会場ではじめて経験する感覚だ。
 そして特徴的なのは、長渕が三十年以上にわたって紡いできた楽曲の中から、とくに珠玉とも言えるラブ・ソングを選りすぐっていることだ。こうやってアコースティック・ギター1本の演奏を聴いていると、改めていかに長渕剛がラブ・ソングを大切にしてきたかということがわかる。それと同時に長渕のラブ・ソングが、たんに男女の機微だけを歌ったものではなく、思い通りにいかない苦悩や自己矛盾、身を引き裂かれるほどの悔しさなど、誰もが感じる若い頃の焦燥を唄にしているのだ。たとえば『HOLD YOUR LAST CHANCE』で長渕剛がいくつになってもオーディエンスの心を振るわせることができるのは、青春の唄が青春で止まっているのではなく、時間とともに若い頃の苦悩が大きな愛へと成長していっているからだ。
 そう思って、長渕剛が今回作り上げた〝闇〟に目を凝らし、集中していると、だんだん自分自身と向き合っているような気になってくる。最初に感じた、戸惑いや驚き、緊張が自分の内面へつながっていく。そうすると、さらに唄の世界へ深く導かれる。このライブ空間の中で起こる幸福な循環こそが、今回のファンクラブ・ツアーのライブで長渕が目指したことなのだ。そしてその循環の大きな輪の中には我々と同じように長渕自身も含まれる。ステージで歌っている長渕の姿が、まるで自己に問いかけているように見えてくる。
 答えはないんだ。けれど答えを求めるんだ。だから唄を歌うのかもしれない。
 ようこそ。長渕剛の本質が垣間みられるライブへ。
 これ以上、ファンクラブ・ツアーならでは、というライブは、ちょっと見たことがない。